「相関関係」という言葉を説明するために、2つのデータを使って示してみたいと思います。
使うのは、「薬局の数」と「図書館の本の数」です。
「薬局で本を借りるわけでもないのに、なぜ?」と思われるかもしれません。
実は、「まったく関係がないはずのデータ同士なのに、統計上は完璧に連動して見える」という不思議な現象を解説するのに、この2つが最高の教材になるからです。
データが私たちに見せる「騙しのカラクリ」を、順を追って解き明かしていきましょう。
「薬局が多い都道府県ほど、図書館の蔵書数(本の数)が多い」
47都道府県のデータを使ってこの2つの数字の関係を調べてみると、相関係数は0.96という非常に高い数字になります。
相関係数は「1」に近づくほど連動性が強いことを意味するため、ほぼ完璧に連動して動いていることを示しています。
では、薬局が増えると図書館の本が増えるという特別な関係が、本当にあるのでしょうか。
当然ながら、そんな関係はありません。
この記事では、「一見すると強そうに見えるデータのつながり」の裏に潜むカラクリを、実際の数字を使いながらわかりやすく解説します。
薬局の数と図書館の本の数、驚きの連動性
まず「相関係数」のおさらいをしておきましょう。
相関係数は「−1から1」の間の数値で表されます。
- 1に近い:片方が増えると、もう片方も増える(正の相関)
- −1に近い:片方が増えると、もう片方は減る(負の相関)
- 0に近い:お互いにまったく関係がない
一般的に「0.7」を超えるとかなり強い関係があると言われます。
今回の0.96はそれを遥かに超える数値です。
実際に上位と下位のデータを見てみましょう。
| 順位 | 薬局の数 | 図書館の蔵書数 |
|---|---|---|
| 1位 | 東京都 7,117か所 | 東京都 49,412,510冊 |
| 2位 | 大阪府 4,611か所 | 大阪府 25,112,845冊 |
| 47位 | 鳥取県 276か所 | 高知県 3,118,552冊 |
全国で薬局は62,828か所、図書館の蔵書は合計約4.47億冊ありますが、どちらも1位は東京都で、下位の顔ぶれもよく似ています。
グラフに並べると綺麗な比例関係を描きますが、だからといって「薬局が多いから本が増えた」わけではありませんよね。
犯人は別にいた。「共通の原因」の存在
なぜ直接関係のない2つのデータが、ここまで綺麗に連動するのでしょうか。
答えはシンプルです。
どちらのデータも「人口」という共通の原因につられて動いていたからです。
それぞれのデータと「人口」の相関係数を計算してみると、そのカラクリがはっきりと見えてきます。
| データの組み合わせ | 相関係数 | 関係の強さ |
|---|---|---|
| 薬局の数 と 人口 | 0.99 | ほぼ完全な一致 |
| 図書館の蔵書数 と 人口 | 0.96 | 非常に強い連動 |
| 薬局の数 と 図書館の蔵書数 | 0.96 | 見せかけの強い相関 |
人が多い地域には、それだけ多くの薬局が必要になり、図書館の規模も大きくなって多くの本が置かれます。
つまり、薬局と図書館の本が直接つながっているのではなく、どちらも「人口の多さ」に引っ張られていただけなのです。
このように、別の要因が原因で関係があるように見える現象を「見せかけの相関(擬似相関)」と呼びます。
人口の影響を取り除くと、相関は一瞬で消える
本当に直接の関係がないのなら、人口の影響を差し引けば相関は消えるはずです。
試してみましょう。
薬局の数を「人口10万人あたり」、図書館の蔵書数を「1人あたり」という単位に変換して、改めて相関係数を計算し直してみます。
| 比較する条件 | 相関係数 | データの状態 |
|---|---|---|
| そのままの数(実数)で比較 | 0.96 | 人口の影響で強い相関が出る |
| 人口あたり(1人あたり)で比較 | 0.15 | 相関がほぼ完全に消滅 |
結果は0.15まで一気に落ち込みました。
「ほとんど関係がない(無相関)」と言っていいレベルの数値です。
実数のままだと、どんな指標を集計しても「大都市圏が上位、人口の少ない県が下位」に並んでしまい、高い相関係数が出てしまいがちです。
だからこそ、データを正しく比較するためには「1人あたり」「10万人あたり」に直す作業が欠かせません(人口10万人あたりとは?)。
割ったあとの数字をどう要約するかは、また別の話になります。
そちらは平均値と中央値のちがいにまとめました。
「相関がある」だけで惑わされないための3つのチェック
データ分析やニュースで「〇〇と〇〇に強い相関関係が見つかった」という発表を見たときは、以下の3つのポイントを疑ってみるのがおすすめです。
- 共通の原因(第三の要因)はないか:今回の例のように、両方が「人口」や「経済規模」に引っ張られているだけではないか
- 実数(そのままの件数)で比べていないか:人口や面積で割って「1人あたり」に直すと消えてしまう関係ではないか
- 因果関係の向きは説明できるか:仮に関係があっても、「どちらが原因で、どちらが結果か」が説明できないなら、ただの偶然の可能性がある
当サイトで2つの指標を突き合わせるときも、相関係数だけで「だから〜が原因」とは書かないようにしています。
たとえば人が多い県ほど持ち家は少ないのかでは、関係の向きまでは決めていません。
逆に、関係がありそうなのに相関が弱かった例もあります。
共働きが多い県ほど配偶者収入も多い?がそれで、係数は0.16でした。
使った数字の年がそろっていないこと
この記事の薬局は2023年、蔵書は2021年、人口は2024年10月1日現在の数字です。
年がそろっていません。
「強い相関が出ても原因とは限らない」ことを見せるための記事なので、それでも話は変わりません。
ただ、年のちがう数字を並べるときは、そう書いておく必要があります(データの出典はなぜ大切?)。
相関係数は外れ値にも弱く、1つの県が大きく離れているだけで数字が動きます。
散らばりを見ずに係数だけを見るのは危ない、というのも合わせて覚えておくとよさそうです。
地方でまとめても、同じことが起きる
47都道府県を8つの地方にまとめ直しても、実数のままなら同じ形になります。
人口の大きい地方が、どちらの指標でも上に来るからです。
| 地方 | 県の数 | 薬局の数 | 図書館の蔵書数 | 人口 | 人口10万人あたりの薬局 |
|---|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 1 | 2,349か所 | 18,631,704冊 | 504.3万人 | 46.6か所 |
| 東北 | 6 | 4,500か所 | 32,183,647冊 | 820.9万人 | 54.8か所 |
| 関東 | 7 | 20,504か所 | 137,655,600冊 | 4,356.7万人 | 47.1か所 |
| 中部 | 9 | 10,770か所 | 86,549,558冊 | 2,061.4万人 | 52.2か所 |
| 近畿 | 7 | 11,202か所 | 73,606,150冊 | 2,189.2万人 | 51.2か所 |
| 中国 | 5 | 3,821か所 | 31,648,311冊 | 699.9万人 | 54.6か所 |
| 四国 | 4 | 1,953か所 | 16,900,497冊 | 353.4万人 | 55.3か所 |
| 九州・沖縄 | 8 | 7,729か所 | 49,644,996冊 | 1,394.5万人 | 55.4か所 |
薬局の多い地方は、蔵書の多い地方でもあります。
ただし右端の「人口10万人あたり」を見ると順番が変わり、1位は九州・沖縄の55.4か所、最下位は北海道の46.6か所です。
実数のまま比べると、どの指標でも同じ並びになる。
これが見せかけの相関を生む仕組みです。
【一覧表】47都道府県の「薬局数」と「図書館蔵書数」
人口で割る前(実数)と、割った後(1人あたり・10万人あたり)で、数値がどのように変化するのかをまとめました(薬局数が多い順)。
| 順位 | 都道府県 | 薬局の数(実数) | 薬局の数(10万人あたり) | 蔵書数(実数) | 蔵書数(1人あたり) | 地方 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 東京都 | 7,117か所 | 50.2か所 | 49,412,510冊 | 3.5冊 | 関東 |
| 2 | 大阪府 | 4,611か所 | 52.7か所 | 25,112,845冊 | 2.9冊 | 近畿 |
| 3 | 神奈川県 | 4,199か所 | 45.5か所 | 16,982,304冊 | 1.8冊 | 関東 |
| 4 | 愛知県 | 3,670か所 | 49.2か所 | 21,819,371冊 | 2.9冊 | 中部 |
| 5 | 埼玉県 | 3,202か所 | 43.7か所 | 24,060,986冊 | 3.3冊 | 関東 |
| 6 | 福岡県 | 2,965か所 | 58.2か所 | 14,514,509冊 | 2.9冊 | 九州・沖縄 |
| 7 | 兵庫県 | 2,772か所 | 51.9か所 | 15,815,608冊 | 3.0冊 | 近畿 |
| 8 | 千葉県 | 2,669か所 | 42.7か所 | 20,607,638冊 | 3.3冊 | 関東 |
| 9 | 北海道 | 2,349か所 | 46.6か所 | 18,631,704冊 | 3.7冊 | 北海道 |
| 10 | 静岡県 | 1,933か所 | 54.8か所 | 14,505,374冊 | 4.1冊 | 中部 |
| 11 | 広島県 | 1,587か所 | 58.5か所 | 9,195,730冊 | 3.4冊 | 中国 |
| 12 | 茨城県 | 1,373か所 | 48.9か所 | 10,716,373冊 | 3.8冊 | 関東 |
| 13 | 宮城県 | 1,215か所 | 54.0か所 | 6,344,309冊 | 2.8冊 | 東北 |
| 14 | 京都府 | 1,198か所 | 47.5か所 | 7,047,715冊 | 2.8冊 | 近畿 |
| 15 | 新潟県 | 1,174か所 | 55.9か所 | 8,171,384冊 | 3.9冊 | 中部 |
| 16 | 岐阜県 | 1,066か所 | 55.6か所 | 8,105,751冊 | 4.2冊 | 中部 |
| 17 | 長野県 | 1,020か所 | 51.3か所 | 10,896,582冊 | 5.5冊 | 中部 |
| 18 | 群馬県 | 992か所 | 52.5か所 | 7,517,806冊 | 4.0冊 | 関東 |
| 19 | 栃木県 | 952か所 | 50.5か所 | 8,357,983冊 | 4.4冊 | 関東 |
| 20 | 福島県 | 903か所 | 51.8か所 | 7,164,433冊 | 4.1冊 | 東北 |
| 21 | 熊本県 | 892か所 | 52.6か所 | 5,567,441冊 | 3.3冊 | 九州・沖縄 |
| 22 | 鹿児島県 | 885か所 | 57.8か所 | 5,913,767冊 | 3.9冊 | 九州・沖縄 |
| 23 | 三重県 | 881か所 | 51.5か所 | 6,445,583冊 | 3.8冊 | 近畿 |
| 24 | 岡山県 | 842か所 | 46.0か所 | 8,416,561冊 | 4.6冊 | 中国 |
| 25 | 山口県 | 776か所 | 60.6か所 | 6,540,708冊 | 5.1冊 | 中国 |
| 26 | 長崎県 | 722か所 | 57.7か所 | 5,671,811冊 | 4.5冊 | 九州・沖縄 |
| 27 | 滋賀県 | 673か所 | 48.0か所 | 9,992,216冊 | 7.1冊 | 近畿 |
| 28 | 愛媛県 | 634か所 | 49.7か所 | 5,309,798冊 | 4.2冊 | 四国 |
| 29 | 岩手県 | 627か所 | 54.8か所 | 5,672,215冊 | 5.0冊 | 東北 |
| 30 | 青森県 | 620か所 | 53.2か所 | 4,639,918冊 | 4.0冊 | 東北 |
| 31 | 山形県 | 616か所 | 60.9か所 | 4,289,174冊 | 4.2冊 | 東北 |
| 32 | 宮崎県 | 594か所 | 57.5か所 | 4,421,080冊 | 4.3冊 | 九州・沖縄 |
| 33 | 大分県 | 580か所 | 53.5か所 | 4,371,171冊 | 4.0冊 | 九州・沖縄 |
| 34 | 沖縄県 | 578か所 | 39.4か所 | 5,216,839冊 | 3.6冊 | 九州・沖縄 |
| 35 | 石川県 | 577か所 | 52.6か所 | 5,897,146冊 | 5.4冊 | 中部 |
| 36 | 奈良県 | 576か所 | 44.8か所 | 5,440,616冊 | 4.2冊 | 近畿 |
| 37 | 香川県 | 533か所 | 58.1か所 | 4,291,012冊 | 4.7冊 | 四国 |
| 38 | 富山県 | 524か所 | 52.6か所 | 5,605,607冊 | 5.6冊 | 中部 |
| 39 | 秋田県 | 519か所 | 57.9か所 | 4,073,598冊 | 4.5冊 | 東北 |
| 40 | 佐賀県 | 513か所 | 65.1か所 | 3,968,378冊 | 5.0冊 | 九州・沖縄 |
| 41 | 和歌山県 | 491か所 | 55.8か所 | 3,751,567冊 | 4.3冊 | 近畿 |
| 42 | 山梨県 | 475か所 | 60.1か所 | 5,422,039冊 | 6.9冊 | 中部 |
| 43 | 高知県 | 402か所 | 61.3か所 | 3,118,552冊 | 4.8冊 | 四国 |
| 44 | 徳島県 | 384か所 | 56.1か所 | 4,181,135冊 | 6.1冊 | 四国 |
| 45 | 島根県 | 340か所 | 53.0か所 | 3,656,604冊 | 5.7冊 | 中国 |
| 46 | 福井県 | 331か所 | 44.8か所 | 6,126,304冊 | 8.3冊 | 中部 |
| 47 | 鳥取県 | 276か所 | 52.0か所 | 3,838,708冊 | 7.2冊 | 中国 |
左側の「実数」で比べると非常に似通った並びになりますが、右側の「1人(10万人)あたり」で並べ直すと、その強い関連性は完全に姿を消すことがよくわかります。
よくある疑問(Q&A)
- 相関係数は具体的にいくつから「強い相関」と言えますか?
-
明確なルールはありませんが、一般的には「0.7以上」が目安です。
0.7以上は「強い相関」、0.4〜0.7は「中程度の相関」、0.2以下は「ほとんど相関がない」と分類されます。
ただし、分析する分野や文脈によって捉え方は異なります。
数値そのものよりも「なぜその関係が生じているのか」を説明できるかどうかが重要です。 - 人口で割って修正すれば、どんなデータでも正しく評価できますか?
-
必ずしもそうとは限りません。
人口以外の「第三の要因」(たとえば面積、高齢化率、気候など)が隠れている場合は、人口で割っても見せかけの相関が残ることがあります。
比較したいデータが「何の影響を受けやすい数値なのか」を見極めて、適切な指標で割る必要があります。 - 相関があるのに因果がない例は、ほかにもありますか?
-
両方が人口についていくパターンが、いちばんよくあります。
施設の数、事故の件数、売上。
どれも人口と強く相関します。
そのため実数どうしを比べると「関係がある」という結果になりやすく、47都道府県のデータではとくに起きやすい落とし穴です。 - 相関係数だけを見て判断してはいけないのはなぜですか?
-
相関係数は「極端な値(外れ値)」に非常に弱いからです。
データの中に1つでも極端に大きかったり小さかったりする県があると、それだけで相関係数が跳ね上がったり下がったりします。
計算結果だけに頼らず、散布図などのグラフを描いて「全体のバラつき」を確かめることが安全です。
まとめ:データに騙されないための心得
「高い相関係数がある=そこに特別な関係(因果関係)がある」とは限りません。
- 数値の背景を見る:薬局と人口は0.99、蔵書と人口は0.96。両方に効いている隠れた要因を探す
- 適切な単位で比較する:実数どうしの0.96は、1人あたりに直すと0.15まで落ちる
- グラフを描いて確認する:数字の計算結果だけでなく、実際のデータの散らばりを見る
データの表面的な数値やランキングに惑わされず、一歩引いてその構造を観察することで、情報の裏にある本当の実態が見えてきます。
出典
- 総務省統計局「社会・人口統計体系(都道府県データ 基礎データ)」薬局数(2023年)
https://www.e-stat.go.jp/regional-statistics/ssdsview/prefectures - 総務省統計局「社会・人口統計体系(都道府県データ 基礎データ)」図書館蔵書数(2021年)
https://www.e-stat.go.jp/regional-statistics/ssdsview/prefectures - 総務省統計局「人口推計」(2024年10月1日現在)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2024np/index.html
- 相関係数、人口で割った値は、上記の公表値をもとに当サイトで計算した
