横浜市、大阪市、名古屋市、札幌市。
名前を聞けば誰もが「大きな都市」と分かる全国20の「政令指定都市」。
普通の市と何が違うのか、教科書ではよく「県の仕事の一部を引き受ける都市」と説明されます。
しかし、「一部」と言われても具体的にどれくらいの規模感なのかは、イメージしにくいかもしれません。
そこで本記事では、政令指定都市の基本をおさえたうえで、「県と市町村が使っているお金の比(歳出比)」というデータを使って、その「一部」のインパクトを数値で可視化します。
全国20の政令指定都市は「15道府県」にある
政令指定都市(以下、政令市)は、地方自治法に基づき政令で指定される都市です。
法律上の条件は「人口50万人以上」ですが、実際の指定では都市機能や行政体制なども考慮されます。
| 地方 | 該当する道府県 | 政令指定都市 |
|---|---|---|
| 北海道 | 北海道 | 札幌市 |
| 東北 | 宮城県 | 仙台市 |
| 関東 | 埼玉県 | さいたま市 |
| 関東 | 千葉県 | 千葉市 |
| 関東 | 神奈川県 | 横浜市、川崎市、相模原市 |
| 中部 | 新潟県 | 新潟市 |
| 中部 | 静岡県 | 静岡市、浜松市 |
| 中部 | 愛知県 | 名古屋市 |
| 近畿 | 京都府 | 京都市 |
| 近畿 | 大阪府 | 大阪市、堺市 |
| 近畿 | 兵庫県 | 神戸市 |
| 中国 | 岡山県 | 岡山市 |
| 中国 | 広島県 | 広島市 |
| 九州・沖縄 | 福岡県 | 福岡市、北九州市 |
| 九州・沖縄 | 熊本県 | 熊本市 |
全国47都道府県のうち、政令市があるのは15道府県。
神奈川県(3市)、静岡県・大阪府・福岡県(各2市)のように複数抱える自治体がある一方、32都府県には政令市が存在しません。
政令市になると「県の仕事」が市に移る
政令市に指定されると、それまで県が担当していた事務権限が市へ移譲されます。
- 引き受ける主な仕事:児童福祉、保健衛生、都市計画、県道の管理・維持など
- 住民のメリット:わざわざ県庁に行かなくても、市役所(や区役所)で完結する手続きが増える
都道府県と市区町村の役割分担そのものは都道府県と市区町村は何が違うのかに書きました。
「一部の仕事が移る」とはいっても、行政規模としてはどれほどのインパクトがあるのでしょうか。
お金の動きから確かめてみます。
データで検証:政令市のある県は「市町村側のお金」が大きくなる
都道府県の歳出(出費)と、その県内にある全市町村の歳出を比較してみます。
「市町村の歳出 ÷ 県の歳出」の倍率を計算したところ、明確な違いが現れました。
| 区分 | 県の数 | 市町村 ÷ 県(平均倍率) |
|---|---|---|
| 政令指定都市がある | 15道府県 | 1.30倍 |
| 政令指定都市がない | 31県 | 0.98倍 |
- 政令市がない県:平均「0.98倍」と、県と市町村の予算規模がほぼ均衡(やや県が大きい)
- 政令市がある道府県:平均「1.30倍」となり、市町村側のお金が県を大きく上回る
県の仕事が政令市に移ることで、市の支出が膨らみ、県の支出が減るためです。
「一部の仕事が移る」という制度の説明が、お金の比率にそのまま表れています。
倍率トップ10はすべて「政令市のある県」
「市町村 ÷ 県」の比率が高い上位10県を並べると、驚くほどきれいに政令市のある県が並びます。
| 順位 | 都道府県 | 市町村 ÷ 県 | 擁する政令指定都市 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 神奈川県 | 1.81倍 | 横浜市、川崎市、相模原市 |
| 2位 | 福岡県 | 1.43倍 | 福岡市、北九州市 |
| 3位 | 埼玉県 | 1.36倍 | さいたま市 |
| 4位 | 岡山県 | 1.34倍 | 岡山市 |
| 5位 | 広島県 | 1.33倍 | 広島市 |
| 6位 | 京都府 | 1.33倍 | 京都市 |
| 7位 | 北海道 | 1.29倍 | 札幌市 |
| 8位 | 静岡県 | 1.28倍 | 静岡市、浜松市 |
| 9位 | 愛知県 | 1.27倍 | 名古屋市 |
| 10位 | 宮城県 | 1.23倍 | 仙台市 |
1位の神奈川県(1.81倍)は3つの政令市を抱えているため、県よりも市町村が使うお金のほうが約1.8倍も大きいという結果になりました。
特殊な例:東京都だけが逆を向いている理由
一方で、全国で最もこの倍率が低いのが東京都(0.72倍)です。
市町村側の支出が都の支出より約3割(28%)も少なくなっています。
この理由は「東京23区(特別区)」の仕組みにあります。
東京23区では、通常であれば市町村が行う「上下水道」や「消防」などの仕事を東京都が一括して行っています。
政令指定都市とは逆に「仕事が都に集まっている」ため、倍率が大きく下がるのです。
同じ「大都市のしくみ」でも、政令指定都市と特別区では向きがちがいます。
特別区のしくみは都・道・府・県は何が違うのかに書きました。
地方ごとの特徴と政令市の配置
政令指定都市の配置と、地方ごとの平均倍率をまとめました。
| 地方 | 県の数 | 政令市の数 | 市町村 ÷ 県(平均) | 政令市 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 1 | 1 | 1.29倍 | 札幌 |
| 東北 | 6 | 1 | 1.02倍 | 仙台 |
| 関東 | 7 | 5 | 1.16倍 | さいたま・千葉・横浜・川崎・相模原 |
| 中部 | 9 | 4 | 1.04倍 | 新潟・静岡・浜松・名古屋 |
| 近畿 | 7 | 4 | 1.09倍 | 京都・大阪・堺・神戸 |
| 中国 | 5 | 2 | 1.10倍 | 岡山・広島 |
| 四国 | 4 | 0 | 0.95倍 | 政令市なし |
| 九州・沖縄 | 8 | 3 | 1.09倍 | 福岡・北九州・熊本 |
四国地方には政令指定都市が存在せず、倍率も唯一1.00倍を下回っています(0.95倍)。
政令市がない地域では、小中学校の教職員給与なども県がまとめて負担するため、県の支出割合が維持されます。
いちばん多いのは関東の5市です。
同じ「県」という言葉でも、受け持っている仕事の量がちがうということです。
全47都道府県「市町村÷県」歳出比ランキング
全47都道府県のデータを上位順に並べた一覧です。
| 順位 | 都道府県 | 市町村÷県 | 政令指定都市 | 都道府県歳出 | 市町村歳出 | 地方 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 神奈川県 | 1.81倍 | 横浜, 川崎, 相模原 | 24,926億円 | 45,089億円 | 関東 |
| 2 | 福岡県 | 1.43倍 | 福岡, 北九州 | 22,031億円 | 31,456億円 | 九州・沖縄 |
| 3 | 埼玉県 | 1.36倍 | さいたま | 22,372億円 | 30,357億円 | 関東 |
| 4 | 岡山県 | 1.34倍 | 岡山 | 7,890億円 | 10,538億円 | 中国 |
| 5 | 広島県 | 1.33倍 | 広島 | 11,937億円 | 15,905億円 | 中国 |
| 6 | 京都府 | 1.33倍 | 京都 | 11,557億円 | 15,396億円 | 近畿 |
| 7 | 北海道 | 1.29倍 | 札幌 | 30,585億円 | 39,393億円 | 北海道 |
| 8 | 静岡県 | 1.28倍 | 静岡, 浜松 | 13,592億円 | 17,390億円 | 中部 |
| 9 | 愛知県 | 1.27倍 | 名古屋 | 28,493億円 | 36,132億円 | 中部 |
| 10 | 宮城県 | 1.23倍 | 仙台 | 10,978億円 | 13,557億円 | 東北 |
| 11 | 千葉県 | 1.23倍 | 千葉 | 22,046億円 | 27,199億円 | 関東 |
| 12 | 大阪府 | 1.22倍 | 大阪, 堺 | 38,953億円 | 47,625億円 | 近畿 |
| 13 | 熊本県 | 1.16倍 | 熊本 | 9,783億円 | 11,372億円 | 九州・沖縄 |
| 14 | 鹿児島県 | 1.15倍 | なし | 9,215億円 | 10,631億円 | 九州・沖縄 |
| 15 | 新潟県 | 1.13倍 | 新潟 | 11,661億円 | 13,136億円 | 中部 |
| 16 | 奈良県 | 1.09倍 | なし | 5,946億円 | 6,502億円 | 近畿 |
| 17 | 長崎県 | 1.09倍 | なし | 7,863億円 | 8,534億円 | 九州・沖縄 |
| 18 | 茨城県 | 1.08倍 | なし | 13,095億円 | 14,120億円 | 関東 |
| 19 | 兵庫県 | 1.08倍 | 神戸 | 26,482億円 | 28,549億円 | 近畿 |
| 20 | 三重県 | 1.05倍 | なし | 8,298億円 | 8,684億円 | 近畿 |
| 21 | 青森県 | 1.05倍 | なし | 7,706億円 | 8,061億円 | 東北 |
| 22 | 岐阜県 | 1.04倍 | なし | 9,614億円 | 10,037億円 | 中部 |
| 23 | 石川県 | 1.04倍 | なし | 6,239億円 | 6,505億円 | 中部 |
| 24 | 長野県 | 1.04倍 | なし | 11,564億円 | 12,030億円 | 中部 |
| 25 | 沖縄県 | 1.03倍 | なし | 9,122億円 | 9,437億円 | 九州・沖縄 |
| 26 | 高知県 | 1.03倍 | なし | 4,835億円 | 4,997億円 | 四国 |
| 27 | 愛媛県 | 1.02倍 | なし | 7,074億円 | 7,185億円 | 四国 |
| 28 | 滋賀県 | 1.01倍 | なし | 6,790億円 | 6,834億円 | 近畿 |
| 29 | 宮崎県 | 0.99倍 | なし | 6,905億円 | 6,867億円 | 九州・沖縄 |
| 30 | 鳥取県 | 0.99倍 | なし | 3,834億円 | 3,789億円 | 中国 |
| 31 | 群馬県 | 0.99倍 | なし | 9,458億円 | 9,338億円 | 関東 |
| 32 | 香川県 | 0.98倍 | なし | 5,013億円 | 4,924億円 | 四国 |
| 33 | 秋田県 | 0.98倍 | なし | 6,392億円 | 6,265億円 | 東北 |
| 34 | 岩手県 | 0.97倍 | なし | 8,247億円 | 8,023億円 | 東北 |
| 35 | 山口県 | 0.97倍 | なし | 7,478億円 | 7,256億円 | 中国 |
| 36 | 山形県 | 0.97倍 | なし | 7,018億円 | 6,780億円 | 東北 |
| 37 | 栃木県 | 0.96倍 | なし | 9,799億円 | 9,384億円 | 関東 |
| 38 | 大分県 | 0.92倍 | なし | 6,994億円 | 6,433億円 | 九州・沖縄 |
| 39 | 佐賀県 | 0.91倍 | なし | 5,958億円 | 5,392億円 | 九州・沖縄 |
| 40 | 福島県 | 0.90倍 | なし | 13,068億円 | 11,812億円 | 東北 |
| 41 | 和歌山県 | 0.88倍 | なし | 6,372億円 | 5,609億円 | 近畿 |
| 42 | 福井県 | 0.88倍 | なし | 5,359億円 | 4,690億円 | 中部 |
| 43 | 島根県 | 0.86倍 | なし | 5,640億円 | 4,873億円 | 中国 |
| 44 | 富山県 | 0.85倍 | なし | 6,142億円 | 5,237億円 | 中部 |
| 45 | 山梨県 | 0.84倍 | なし | 5,830億円 | 4,904億円 | 中部 |
| 46 | 徳島県 | 0.77倍 | なし | 5,356億円 | 4,104億円 | 四国 |
| 47 | 東京都 | 0.72倍 | なし | 91,883億円 | 65,815億円 | 関東 |
上位には政令市を持つ自治体がズラリと並び、中盤以降に「なし」の県が続きます。
よくある疑問(FAQ)
- 人口が50万人を超えたら自動的に政令指定都市になれますか?
-
自動的にはなれません。
人口50万人はあくまで「法律上の最低条件(下限)」です。
実際の指定には、都市のインフラ整備状況、行政処理能力、周辺地域への影響力などが総合的に審議され、政府の政令によって決定されます。
50万人を超えていても指定されていない市があります。 - 政令指定都市の「区」と「東京23区」は何が違うのですか?
-
行政上の組織構造がまったく異なります。
- 政令市の区(行政区):市役所の内部組織。区長は市長が任命する公務員であり、独自に条例を作る権限はありません
- 東京23区(特別区):独立した地方自治体。区長や区議会議員は住民選挙で選ばれ、独自の条例制定権や課税権を持ちます
- 政令指定都市になると、住民には何が変わりますか?
-
手続きの窓口と、市の中の区割りが変わります。
県が担当していた事務の一部を市が引き受けるため、県庁に行かずに市役所で済む手続きがふえます。
市の中に「区」が置かれるのも、政令指定都市の特徴です。
この数字で言えないこと
市町村÷県の比は、政令指定都市だけで決まるわけではありません。
人口の多さ、市町村の数、その県が力を入れている分野によっても動きます。
歳出の総額なので、何にいくら使ったかまでは分かりません。
政令指定都市が引き受ける事務の中身を1つずつ見たわけでもありません。
言えるのは「政令指定都市のある県では、市町村側の支出が大きくなる傾向がはっきりしている」ということまでです。
まとめ
- 政令指定都市は全国に20市(15道府県)
- 県から仕事が移るため、政令市のある道府県は「市町村側の支出」が県を上回る(平均1.30倍)。ない県は0.98倍
- 倍率トップ10の県はすべて政令指定都市を持つ自治体
- 最も倍率が低いのは東京都(0.72倍)で、特別区(東京23区)に仕事が集まる逆の構造になっている
- 四国地方には政令指定都市がなく、平均も0.95倍と唯一1.00倍を下回る
「県の仕事の一部を引き受ける」という教科書的な知識も、お金の比率を見ることで制度の実効性やインパクトをリアルに理解することができます。
出典
- 総務省「指定都市一覧」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/bunken/shitei_toshi-ichiran.html - 総務省「指定都市制度の概要」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001026279.pdf - e-Gov法令検索「地方自治法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000067 - 総務省統計局「社会・人口統計体系(都道府県データ 基礎データ)」(2022年)
https://www.e-stat.go.jp/regional-statistics/ssdsview/prefectures
- 市町村÷県の比、あり/なしの平均は、上記の公表値をもとに当サイトで計算した
